フジテレビ系列のバラエティ番組「ホンマでっか!?TV」にて、興味深いやり取りがあった。
同番組に出演したマーケティングの専門家によれば、女性のウケがいい男性の趣味の1位は、読書だそうだ。
結婚後も、女性は一人の時間を大切にしたいため、読書が趣味ならそういう価値観を理解してもらえそう、という理由らしい。
この専門家の発言のあと、同番組では、レギュラー出演しているお笑いコンビEXITの兼近大樹氏と、お笑いコンビブラックマヨネーズの吉田敬氏が、趣味が読書であるという話題に移った。
そこで、まず兼近氏がトークを始め、自宅の本棚の一部が紹介される。
彼の本棚には『教団X』のハードカバー本を始め、小説が30冊ほど並んでいた。
兼近氏いわく、センスのいい本棚に見えるように心がけているとのことだ。
続いて吉田氏がなにを読んでいるのかという話題になり、そこで吉田氏は、「『嫌われないようにする方法』…」と応えた。
ここまでのシーンは、正直ながら見だったので、ディティールは間違っていると思うが、おおよそこんな流れだったと記憶している。
印象的だったのはこのあとだ。
吉田氏の答えを聞いた兼近氏は、「自己啓発本ッスか…」と言った。
兼近氏の発言の真意はわからない。
しかしおそらくは、その本で趣味が読書ってどうなん?ではないだろうか。
僕がこう思ったのも、2021年10月の初めに、「秋に読むべき100冊」というツイートが大盛り上がりになったからだ。
その100冊の中には、いわゆる自己啓発本が何冊も入っていて、「こんな本読むなら別の本を読むべき」というリプライが多数寄せられた。
自己啓発本というワードがトレンド入りし、拡散に拡散を重ね、さまざまな意見が飛び交った結果、ツイートした本人がそのツイートを消すという事態となった。
どうやら読書が趣味という人の中には、読書あるいは対象となる書に対して、一定のボーダーラインがある。
それは読書ではない、その本は読書に当てはまらない、というように。
書であればなんでも言いわけではないのだ。その目は、ときに厳しい。
とくに自己啓発本に対しては。
言わんとしていることはわかる。
僕も件のツイートで紹介されていた100冊リストを見たとき、まあ言われてしまうのもわからなくもない、と思った。
が、なぜ自己啓発本は読書に入らないの?と聞かれると答えに窮する。
自己啓発本だって、小説のように感動するときは感動する。
哲学書のように何度も読まないと本質が見えてこないような文章が書かれていることもある。
読書が趣味の人が言う「自己啓発書は入らない」というそのボーダーラインは、具体的にはなんだろうか?
考えを巡らせていたら、昔の同僚が飲みの席で言った、管子の「衣食足りて礼節を知る」という言葉を思い出した。
昔、僕たちは、同じ職場で働いていたというのもあり、お互いに今の仕事で手に入る収入の少なさに悩んでいた時期があった。
やりがいだけで働き続けていたけれど、収入が少ないと、結局毎日お金のことばかり考えてしまう。
本を買うにも、飲みにいくにも、旅行をするにも、お金、お金、お金……。
そんな苦い思い出をお互いに振り返っていたときに、その同僚がポツリとつぶやいたのがこの言葉だ。
僕たちの境遇を端的にはっきりと示した言葉だったからだろう。
同僚がつぶやくその姿も含めて、今でもはっきり覚えている。
「衣食足りて礼節を知る」
心の余裕ばかり求めても豊かにはならなくて、金銭的な余裕もやはり重要だ。
金銭的な困難は、心にも影響をあたえる。
金銭と心は深くつながっている。
だからこそ、僕たちは金銭的な困難をもたらすものにすごく敏感になる。
自己啓発本が読書の書の対象にならない理由は、そこにあるのではないか。
自己啓発本は、心に豊かさを与えてくれるかもしれない。
でも、たいてい書いてあることは同じで、結局何冊買っても何も変わらない。
ただただ浪費を誘う本。
金銭的に損しかない本。
自己啓発書にはそんなイメージがある。
だから、読書の書に当てはまらない。
ところで、もし金銭的な損のイメージを持つ自己啓発書が読書の書に入らない条件なら、きっと僕が今読めていない“時間”に関する哲学書も読書の書には当てはまらないだろう。
本を読むことに興味のない家族からしてみたら、僕の本棚に積み重なっている本は、どれも損なイメージしかないからだ。
現に、また無駄遣いして…どうせ読んでないんでしょ?と言われている。
だけれど、僕には僕なりの理由があって、その本を買っている。
積ん読しているのだ。
さて、ここで問いを出してみよう。
読んでいない哲学書や古典100冊リストをゴリ推してくるツイートと、しっかり読んだ自己啓発書100冊を感動とともに伝えるツイート。
どちらのほうが、読書を趣味とする人に認められるだろうか。
どちらのほうが、読書を趣味とする人のリプライをたくさんもらえるだろうか。
好きな本を自由に読めばいいんだ。
とやかく言った時点で、自分に返ってくる。
最後にブラマヨの吉田氏のツイートを貼っておく。