モチベーションを上げるためには自分を褒めるのが有効。ではその具体的な手段は?

ちょっと前に、ジェイク・ナップ&ジョン・ゼラツキー共著の『時間術大全』(ダイヤモンド社)を読んだ。

時間を有効活用するための術を教えてくれる本で、多角的にいろんなコツを教えてくれる。
分厚い本だけれど、項目ごとにわかりやすくまとめてあって、結構すらすら読める。

もちろん、この手の本は、読んで「ふむふむ、なるほど」と言っているだけでは意味がない。
言っていることを実践して、生活習慣に取り込む必要がある。
そうして初めて、“本の中で紹介されている理想の姿”に近づけるのだ。

で、『時間術大全』では、コツのひとつとして、集中力や注意力を高めるには運動が必要であり、運動を継続させるポイントとして「少しでもできたら自分を褒める」って言っている。

なるほど。
でも……自分で自分を褒めることは、結構難しくはないか?

いや、多分言葉ではいくらでも言えると思う。
運動した僕に対して、「よく頑張ってね」
勉強した僕に対して、「結構新しいことを知ったね!」
って。

でも、それで本当に褒められた気になっただろうか。
やる気が湧いただろうか。

自分で自分を褒めたとき、どこか他人事のような、上滑りしているような感覚がある。

自分で自分を褒め、モチベーションを上げるためには、根本的な部分を見る必要がある気がする。

先に、他の人を褒めることについて考えてみよう。

新村出編『広辞苑 第7版』(岩波書店)によれば、褒めるとは、次のように定義される。
『①祝う。ことほぐ。祝福する。②(同等または目下の者の)行いを評価し、よしとしてその気持を表す。たたえる。称賛する。』

たとえばAさんとBさんというふたりの会社員がいて、AさんがBさんの仕事ぶりを良いと評価する。
そしてその気持ちを「君のやっていることは素晴らしい」とBさんに伝える。
これが褒める。

もう気づいている人がいるかもしれないけれど、これは「褒める」の片面であって、全部を捉えているわけではない。

自分が「すごい!」「偉い!」と言われたときをイメージしてみよう。
嬉しいと思うときもあれば、「本当にそう思っている??」と疑った経験はないだろうか。

『広辞苑』の言うように、『評価し、気持を表す』だけでは、「あの人は、ただ言っているだけ」「何もわかっていない」と、かえって関係に亀裂が入ってしまうケースだってあるのだ。

「褒める」をちゃんと捉えるためには、もう片面を知る必要がある。

そのヒントとなるものとして、マーガレット・シルフ編著『世界中から集めた深い知恵の話100』(女子パウロ会)に収録されている、『水もれバケツ』というイギリスの寓話を紹介しよう。

あるところに美しい庭を持つ庭師がいた。

庭師は花壇に水をやるため、小川で水を汲むのを日課としていた。
2種類のバケツを必ず持っていき、水を汲んだら両手にバケツをひとつずつ持って、必ず同じ小道を使って庭に戻っていった。

ところでこの2種類のバケツは、ひとつが園芸センターで買ったばかりの新品バケツ、もうひとつが使い古されて水もれするバケツだった。

古いバケツは、水もれする自分を恥じていた。庭師の役に立てていない、そんな自分が許せなかったのだろう。
それだけではなく、新しいバケツにも『ごらん、ぼくがどんなに有能か』と言われる始末だった。

しかし、そんなふたつのバケツのやり取りを聞いた庭師が、あるとき水撒きが終わったあとこう言うのである。

『わたしはこれからきみたちを物置小屋に返しに行くが、みちみち、小道に目をくばってみたまえ。』

小道を見ると、くっきりと道の半分だけに新芽がたくさん生えていた。
それは、庭師がいつも古いバケツを提げていた側だった。
毎日通るたびに水がもれ、大地が潤い、新たな生命が芽生えたのである。

一方、新品のバケツを提げて歩いた側は、乾いた大地が広がっているだけだった。

『水もれバケツ』の話は、とてもいい話だ。
この話を読んで、寓話っていいものだなあ(語彙力……)と思い、いろんな寓話を読んだのを覚えている。

それはさておき……
『水もれバケツ』では、庭師が水もれバケツのことを、「水もれバケツの行いを評価し、よしとしている」ので褒めていると言える。

しかし、そこには嫌みは感じられない。
なぜか?

庭師が、水もれバケツを、普段からちゃんと見ていることがわかるからだ。

これが「褒める」のもうひとつの面である。

つまり、「褒める」は相手と信頼関係を築くために使うのではなく、相手と日頃から向き合う時間を積み重ねてから使って初めて成立する。

もちろん、ただ一緒に過ごせばいいわけではなくて、

  • 何が好きなのか
  • どんな趣味を持っているのか
  • 何に悩んでいるのか
  • どのような問題に直面しているのか

これらを知り、受け止めた上で、相手の言動を讃えて、やっと相手は「この人は自分を褒めてくれている!」と感じる。

自分で自分を褒めるときも同じ。
自分と日頃から向き合って初めて“褒めるは生きる”のである。

自分という人間を知り、受け止めれば、自分の中に前向きな気持ちが生まれる。
このとき運動に対する頑張り、勉強に対する努力が認められていると感じ、「もっとやろう」というやる気アップに繋がる。

では、自分と日頃から向き合うにはどうしたらいいのだろうか。
いろんな方法があると思うけれど、僕は日記やノートに、今から紹介する内容を記録することをおすすめしたい。

1.毎日の行動
1日を朝・昼・夜とざっくり3つに分けて、何をしたのかを箇条書きしてみよう。
すると、だいたい何時に寝て何時に起きているのか、どこに時間をよく使っているのかなど、普段の自分がありありと見えてくる。
ポイントは忠実に記録しようとせず、肩の力を抜いて、なんとなく思い出せる範囲で記録すること。
すべてを書こうとすると、すぐにつらくなり、続かない。

2.感動した出来事
何に心を動かされたのか、自分の感情が揺さぶられたのかを記録しよう。
感情は思った以上に日々変化するもので、感動のアンテナの向きは毎日コロコロ変わる。
今日面白いと感じても、1週間後に面白いと感じるとは限らない。
そんな変化を切り取るようにして書き留めておけば、自分への理解が深まっていく。

3.新しく知ったこと
スマホで調べた新しいお店の情報、人から聞いた新しい話を書き留めよう。
どんな些細な内容でも、新しく知ったと思えばどんどん記録するのがコツ。
自分が何に対して興味を持っているのかがわかり、自分のモチベーションを上げるヒントが得られる。

4.記録をしたら…
これらの記録は見返すだけで、自分の習慣や喜び、興味などを明確に教えてくれる。
自分にとって頑張ったと心から思えることは何か、学んだと強く実感できることは何か、気づかせてくれる。
その正体が掴めたとき、自分にかける言葉は、非常に生き生きとした「褒め言葉」になる。

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